小規模掘削・溝掘り時の土砂崩壊災害の特徴及び安全対策を解説【土留めが命を守る】
深さ2mで溝掘りをやるんだけど、地山を見ると掘削後に崩壊の可能性がありそうなんだ…現場ではどんな対策をすればいいかな?
こんな疑問に答えます。
土砂崩壊による労働災害の死亡者数は、毎年20~30人前後で推移しています。
労働安全衛生総合研究所がまとめた資料によると、溝掘削工事の土砂災害における災害発生状況は、労働安全衛生法の改正・ガイドラインの制定ごとに減少はしているものの、災害がゼロにはならないのが現状です。
災害発生状況と掘削の基準について
このうち、小規模な溝掘削作業時の土砂崩壊災害が半数以上を占めております。
溝掘削はどこでも見かける作業ですが、この種の災害は恒常的に発生しているにもかかわらず、災害発生の実態はよく知られていません。
そこで労働安全衛生総合研究所では、溝掘削時に発生した90件の死亡災害について、その発生のメカニズムや死亡原因等を詳細に分析しました。
本記事では、溝掘削に関係する事故事例と安全対策について解説します。
当サイト『ゲンプラ』の運営者:ランメイシ
現場監督と家庭(プライベート)の両立を応援するために、土木工事の施工管理をやっている現役の現場監督(歴16年)が当サイトを運営。施工管理業務の悩みに全力でサポートします!ご安全に!
保有資格:1級土木施工管理技士、河川点検士
主な工事経験:河川の築堤・護岸工事、道路工事、橋梁下部工事
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溝掘削工事における土砂崩壊災害の特徴
溝掘削工事における土砂崩壊災害のには、5つの特徴があります。
- 腹部を挟まれて圧死が多い (顔が出たままでも死亡)
- 比較的浅い掘削工事で発生
- 剥離倒壊型(びょうぶが倒れるような崩壊) が多い
- 危険な埋戻し土(崩壊の一因)
- 死亡災害の9割は土留め未設置
以下より、5つの特徴について詳しく解説します。
① 腹部を挟まれて圧死が多い (顔が出たままでも死亡)
この災害の調査で、 被災者がどこまで埋まっていたかを調べたところ、
- 「全身が埋まって死亡した」が約3割であること
- 「首、胸、その他の身体の部分 (土塊により打撃を受けたり、身体の一部が、崩壊した土砂と掘削面に挟まれる等) が埋まって死亡した」 が約6割であること
という結果となっています。
埋没部位 | 割合 |
全身 (全身が埋まった) | 31.1% |
首まで | 13.3% |
胸又は 腹部以下まで | 25.6% |
その他 | 18.9% |
不明 | 11.1% |
このうちの約6割は全身が埋まっていないにもかかわらず死亡しており、約4割は胸から上が出たまま死亡していました。
つまり、比較的浅い部分の掘削工事中に地山が崩壊して、崩壊土と溝壁との間に胸や腹を挟まされて圧死した災害が多いということです。
例えば、こんな事故がありました。
土砂崩壊により、現場監督者が顔が出た状態で、崩れた土砂に胸から下を挟まれました。
事故後しばらくは声を出してあれこれ指示を与えていましたが、20分・30分と時間が経過するにつれ、しだいにぐったりし、病院に運ばれた時点ではすでに死亡していました。
土砂崩壊災害というと、多量の土砂に全身が埋まって鼻や口を塞がれて呼吸ができずに窒息死すると考えられがちです。
しかし、小規模な土砂崩壊による労働災害では、同じ窒息死でも胸部圧迫によるものが多いのです。
土砂に埋もれて息ができないっていう状況が多いと思っていたけど、2~3mほどの深さで人が耐えられないほどの土圧になるんだね…。
土砂掘削も、たかが2mと甘く見てはいけないね。地山の掘削高さが2mを超えると「地山の掘削作業主任者」の選任が必要だし、安全対策は必須だね。
死亡原因を見ると、窒息圧迫死・骨折・内臓破裂が多いです。
傷害部位は胸部が多数を占め、腹部とあわせると6割近くになります。
胸や腹に土圧を受けた場合、圧迫による呼吸困難や肋骨骨折による肺挫傷で窒息するか、内臓破裂等で死亡しています。
胸部圧迫による窒息死を含めて、大部分は胸部又は腹部に土圧を受けたために起きる、いわゆる圧死と考えられます。
② 比較的浅い掘削工事で発生
溝掘削工事での土砂崩壊災害は、比較的浅い小規模な掘削工事で発生しています。
前述の調査では、
- 死亡災害の約8割が深さ3m以下の掘削で発生している
- 深さ2m以下でも2割を超える死亡災害が発生している
という分析結果でした。
2m以下の比較的浅い掘削溝でも、死亡した例が少なくないということです。
たとえ浅い溝であっても、土圧をまともに受けると死に至ることがあることを確認しておきましょう。
③ 剥離倒壊型(びょうぶが倒れるような崩壊)が多い
死亡者が出た溝の土砂崩壊現場で、溝の中にいて助かった人もいます。
崩壊に気づいた人が「山がきた!」と叫び、ほんの数秒の間に、溝の中で崩壊部から逃げることができたのです。
土砂の崩壊に気づいた人に背中を押されて助かった人もいました。
しかし、このケースでは、後ろから押してくれた人は逃げきれず亡くなりました。
崩壊パターンは以下の4種類に分類されます。
- 表層すべり型、
- 剥離倒壊型、
- 滑動又は円弧すべり型
- 落下型
① 表層すべり型
② 剥離倒壊型
③ 滑動又は円弧すべり型
④ 落下型
意外と多いのが「ぴょうぶや壁が倒れるように崩壊した」というもので、これは②の「剥離倒壊型」の崩壊です。
掘削した溝の壁面が、このように剥離して崩壊することはあまり知られていません。
この種の崩壊では初めはゆっくりと壁が動きはじめるので、早く気づけば逃げきれる場合もあるようです。
現場でこんな状況に至らないように、気をつけないといけないね。
④ 危険な埋戻し土(崩壊の一因)
分析結果では、全体の85%の災害で、すべり面の一部に埋戻し土が認められました。
過去の土工事で、地盤が弱くなったことが崩壊の要因です。
掘削した後の溝がなぜ危険なのか。
掘削で土砂を取り除くことによって、水平方向の支えが無くなった状態になっています。
さらに掘削面が鉛直なため、土の重量がまともに溝壁面の下部にかかります。
つまり、下部の壁面近くの地盤は支えを失っているにもかかわらず、地盤の重量のかなりの部分を支えている状態です。
この部分に、過去に設置された配管などがある場合は、強度不足による崩壊の危険性が生じます。
埋め戻した土中に残された布袋が剥離面となって土砂が崩壊し、死亡した例もありました。
強度が十分でないと疑って崩壊し、死亡した事例もありました。
埋戻し土には何が埋まっているか分かりません。
強度が十分でないと疑うべきでしょう。
同じように、排水溝や建物の基礎が残された地盤あるいは、盛土地盤でも十分な注意が必要です。
⑤ 死亡災害の9割は土留め未設置
土留めの設置中又は除去中を含めると、土留めをしていなかったものが全体の9割を超えていました。
具体的な土留め状況と割合は以下の通りです。
土留め | 割合 |
設置済み | 3.3% |
設置中 | 28.9% |
設置無し(設置計画あり) | 14.5% |
設置無し(設置計画なし) | 52.2% |
その他・不明 | 1.1% |
土留めの設置を終了していたものは、ごく少数という結果でした。
つまり、土留めを省略したことが災害の主因となったと考えられます。
土砂崩壊災害の防止対策
土砂崩壊災害が一向に減らない要因の一つには、自然が相手ということで対策がとりにくいということがあげられます。
しかし、土砂崩壊が自然現象だとしても、上記の調査結果のように災害発生の要因を見ると 「防護対策が不十分であった」という事例が目立ちます。
つまり、対策を十分行っていれば防止できた災害が多いということです。
上下水道工事の掘削作業では、比較的浅い小規模な掘削工事となるため、十分な崩壊対策がとられないケースが見受けられます。
しか、安衛則第361条では「事業者は…地山の崩壊又は土石の落下により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、あらかじめ土止め支保工を設け・・・危険を防止するための措置を講じなければならない」と規定されています。
(地山の崩壊等による危険の防止)第361条
事業者は、明り掘削の作業を行なう場合において、地山の崩壊又は土石の落下により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、あらかじめ、土止め支保工を設け、防護網を張り、労働者の立入りを禁止する等当該危険を防止するための措置を講じなければならない。
(出典:E-GOV法令検索)
土砂崩壊災害を防止する主なポイント3選
土砂崩壊災害を防止する主なポイントは以下の3つです。
- 事前調査の実施
- 施工計画の策定
- 作業における安全対策
① 事前調査の実施
基本的対策としては、まず事前調査の実施があげられます。
掘削箇所周辺の地質、地層の状態について事前に地質調査及び埋設物の調査を行います。
(a) 地質や湧水の調査
溝掘削工事の場合には、土質や湧水の状況により、土留め支保工の必要性や、その工法を検討しておくことが重要です。
(b) 地下埋設物調査
溝掘削工事において地下埋設物の調査は、作業中の地下埋設物の破損防止に大切なばかりでなく災害防止のうえでも重要です。
溝掘削工事における土砂崩壊の大半が、掘削側面に地下埋設物が近接し、その過去の埋戻し土や漏水・湧水に関係しています。
②施工計画の策定
事前調査に基づき、掘削範囲、深さ勾配及び順序を検討し、現場の状況に適合した施工計画を策定することが大切です。
③ 作業における安全対策
(a)実際の作業にあたっては、施工計画に基づき、正しい掘削勾配、掘削順序で作業を行うよう、作業員に周知徹底させること。
(b) 日常の地山点検は、作業開始前及び降雨、地震等の後には地山の状態について十分な点検を行い、浮石や崩壊しやすい土砂等を除去するとともに、土留め支保工の結合部の状況、変形の有無等についても入念に点検すること。
掘削中も掘削によって現れた地山と施工計画時に想定していた地山との地質、湧水状態の違いについて把握し、その結果に基づき必要な対策を立てていくことが大切です。
(c) 掘削部には土留め等がない無防備な状態では入らないことです。
安衛則では2mまで危険がない限り鉛直に掘削可能ですが、災害事例を参考に1.5m以上の掘削では土留めをすることが望ましいですね。
掘削作業時の地山の種類・掘削高さ・法勾配の関係については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてくださいね。
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