ヒヤリハットって、労働災害を防ぐために大事なのはわかるんだけど、下請けの職人さんは面倒くさがって、なかなか体験談を紙に書いてくれない。危ない目にあった体験をまとめて安全管理に活かしたいんだけど、いい方法ないかな?
こんなお悩みに答えます。
ヒヤリハット活動は、 建設業以外にも各種産業現場で、安全管理活動の一つとして広く行われています。
現場で体験したヒヤリハット事例を集め、情報共有することで、他の人が危ない目にあうのを防ぐことができるのに、誰もヒヤリハットを書いてくれない。
みんな紙に書くのが面倒だとか、大怪我寸前のかなり危ない体験で他の人に知られたらマズいことだったとかで、なかなかヒヤリハットは書いてくれないよね。
本記事では、ヒヤリハット活動の目的や注意点、体験談を書いてもらうための方法について解説します。
ヒヤリハット活動の効果
ヒヤリハット活動をすることで得られる効果は、以下の通りです。
- 将来起きる災害を予測するための重要な要素が見つかる可能性があり、災害防止対策を探るうえで重要な情報源となる
- 労働災害は頻度が少ないが、ヒヤリハットは頻度が多いため、多数のデータ収集が可能であり、その分析からさらに普遍化された危険情報を得られる
- ヒヤリハット事例を報告することにより、報告者自身の安全に対する意識の向上が期待できる
労働災害は頻度が少なく、ヒヤリハットは頻度が多いって、ハインリッヒの法則ってやつだよね。
ハインリッヒの法則とは、1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故があり、さらに300件のヒヤリハット(事故には至らなかったものの、ヒヤリとした、あるいはハッとした事例)があるという法則です。
労働災害を更に減少・撲滅させるためには、このようなヒヤリハットの段階での危険の芽を摘むことが重要です。
ヒヤリハット活動の注意点
作業の安全にきわめて寄与すると考えられるヒヤリハット活動ですが、実施にあたっては次の点に注意する必要があります。
- 報告内容が労務管理や勤務評定に影響する恐れがあれば、情報は共有されずに隠される可能性があり、報告内容の責任を追及する等、安全以外の目的には絶対使用しないことを明示する
- 報告者や報告部署がわかると、報告することが自身や部署の恥につながると考えられやすく、報告が抑えられる可能性があるため、報告者や報告部署がわからないように報告者の匿名性を確保する
- 報告しても、改善措置がとられなければ活動に意味がなく、ヒヤリハット活動参加者の動機づけにも悪影響を及ぼすため、報告に基づいて速やかに対策をとるか、何らかの形で安全施策に反映させる
- 危険情報を同種の作業を行う人に流すことは「知識の共有」という点で重要な意味を持ち、また報告の動機づけにもプラスに作用するため、報告内容や分析結果を、報告者の所属するグループや報告者と同じ仕事をする人々に知らせる
- 報告先は理想的には会社の組織から独立した機関がベストですが、現実問題としてそれは困難な問題が伴うため、報告先としては指揮命令系統からはずれたスタッフ部門、又は第三者的機関が望ましい
ヒヤリハット活動の問題点
現場の安全担当者が直面するヒヤリハット活動の問題点は、以下の通りです。
- 事例が報告されない
- 内容に偏りがある
- 活動がマンネリ化する
問題を回避する2つの方法
ヒヤリハット活動の問題点を回避する2つの方法は以下の通りです。
- 事故発生にかかわる問題点を設定し、例えば『作業の省略』に焦点を絞るなら、『作業の省略』という問題点を含むような具体的なヒヤリハット事例を作業員に提示し、複数の作業員間でその事例に含まれる問題点を討議させ、その後に類似のヒヤリハット体験について報告してもらう
- 『作業の省略』がどんな状況で起きるか、例えば安全帯や検電等いくつかの具体的な安全手段に関して、省略される状況や背景要因をあらかじめ質問文として複数作成しておき、そして作業員には該当すると思われるものに○印を求め、その回答後に自身の経験で『作業の省略』によって生じたと思われるヒヤリハット体験を報告してもらう
① 具体的なヒヤリハット事例の問題点を討議し、類似のヒヤリハット体験について報告する
まず、作業員に経験したヒヤリハット体験を用紙に記入するように求めても、単に滑った・転んだといった、単純な動作の失敗が報告されることが多いです。
逆に、事故の延長線上にあると考えられるような有効な事例は、報告されることが少ないです。
その理由として、このような動作エラーは現実に「はっ」とする感情を体験し印象に残りやすいため、用紙を前にしたときに再生しやすい性質を持つことが考えられます。
そこで、有効な事例を収集するための手法として、調査側から作業員に何らかの働きかけを行う必要があります。
つまり第1の手法としては、まず事故発生にかかわる問題点を設定し、例えば『作業の省略』に焦点を絞るなら、『作業の省略』という問題点を含むような具体的ヒヤリハット事例を作業員に提示し、複数の作業員間でその事例に含まれる問題点を討議させ、その後に類似のヒヤリハット体験について報告させるという手続きがあげられます。
② あらかじめ質問文として複数作成しておき、該当すると思われるものに○印を求め、その回答後にヒヤリハット体験を報告してもらう
第2の手法としては、『作業の省略』がどのようなときに生じるか。
例えば安全帯や検電等いくつかの具体的な安全手段に関して、省略される状況や背景要因をあらかじめ質問文として複数作成しておきます。
そして作業員には該当すると思われるものに○印を求め、その回答後に自身の経験で『作業の省略』によって生じたと思われるヒヤリハット体験を報告してもらいます。
呼び水効果の手法
これらの手法では、具体的なイラストを題材にしての討議、多肢選択法による質問への回答を通すことにより、作業員がこれまでの作業経験から得ているであろう事故にかかわるさまざまな知識、経験を呼び起こすような手がかりを与え、それをきっかけに問題点を含む有効なヒヤリハットを無理なく再生してもらうという『呼び水効果』を利用しています。
ヒヤリハット事例紹介
当サイトでは、運営者が実際に体験したヒヤリハット事例をイラスト付きで紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね。
ヒヤリハット事例に目を通しておくだけでも、現場で似た状況に遭遇したら気付くことができるから、労働災害の防止にもなるね。
当サイトオリジナル・ヒヤリハット事例
- 丁張材を運んでいる途中、段差に躓きそうになった
- 単管パイプの片付け中、周囲の人に当たりそうになった
- ダンプ荷台上で写真を撮ろうとして、転落しそうになった
- 梯子を登っている途中、ズレて転落しそうになった
- 敷鉄板の上を歩行中、滑って転びそうになった
- 玉掛フックが資材に引っかかり、荷崩れした
- バックホウが移動したときに、敷鉄板がズレた
- 積み重ねたバタ角の上に乗ったとき、転倒しそうになった
- 足場上で張り出した単管パイプで顔を打ちそうになった
- ブラケット足場の結束忘れにより、転落しそうになった
国土交通省 業種別ヒヤリハット調査結果
国土交通省では、技能者の労働災害を未然に防止するため、職種ごとにヒヤリハット体験事例等を収集。
建設現場の事故防止等のためのヒヤリ・ハット事例等の共有について
結果を分類・整理の上、データベースを構築し、情報は広く共有されています。
この調査結果では、鉄筋工事業・型枠工事業・とび工事業・屋根工事業・内装仕上工事業の5職種に分類されています。
そのうち鉄筋工事業について、調査結果を紹介します。
鉄筋工事業
鉄筋工事におけるヒヤリハット5箇条
- スラブ上歩行時は足元に注意!
- 強風による倒壊・落下に注意!
- クレーンの操作は細心の注意を払う!
- 差し筋をまたぐ際に注意!
- トラックでの資材運搬時に注意!
ヒヤリ・ハット事例を作業場面ごとに分類し、発生件数を集計した結果は以下の通りです。
分類 | 件数 | 割合 |
配筋作業中 | 24 件 | 42.9% |
玉掛け・揚重作業中 | 17 件 | 30.4% |
資材運搬時 | 11 件 | 19.6% |
その他 | 4 件 | 7.1% |
合計 | 56 件 | 100% |
ヒヤリハット事例が、仮にヒヤリハットにとどまらず労働災害となった場合に、その事故の型を項目ごとに分類した結果は以下の表の通りです。
事故の型 | 件数 | 割合 |
飛来、落下 | 19 件 | 33.9% |
転倒 | 18 件 | 32.1% |
激突 | 8 件 | 14.3% |
崩壊・倒壊 | 8 件 | 14.3% |
墜落・転落 | 5 件 | 8.9% |
挟まれ、巻き込まれ | 3 件 | 5.4% |
切れ、こすれ | 3 件 | 5.4% |
交通事故(道路) | 2 件 | 3.6% |
感電 | 1 件 | 1.8% |
踏み抜き | 1 件 | 1.8% |
合計 | 68 件 | 121% |
ヒヤリ・ハットを体験した際の原因と思われる心身状態について、項目ごとに分類した。選択した項目(複数選択可)を集計した結果は表3の通りである。
原因 | 件数 | 割合 |
不注意(見落とした、気づかなかった等) | 49件 | 87.5% |
危ないと思っていなかった | 27件 | 48.2% |
大丈夫と思い手順を省略した等 | 9件 | 16.1% |
身体のバランスを崩した | 7件 | 12.5% |
身体、気持ちが疲れていた | 7件 | 12.5% |
予測違いをした | 4件 | 7.1% |
よく見えなかった | 4件 | 7.1% |
心配事があった | 3件 | 5.4% |
手順、急所を忘れていた | 3件 | 5.4% |
イライラしていた | 3件 | 5.4% |
見間違い、思い間違い | 3件 | 5.4% |
錯覚 | 2件 | 3.6% |
近道 | 2件 | 3.6% |
合計 | 123件 | 220% |
厚生労働省 職場のあんぜんサイト・ヒヤリハット事例
また、厚生労働省「職場の安全サイト」でも、様々な場面で発生するヒヤリ・ハット事例をイラスト付きで紹介されているので、こちらも参考になりますよ。
400件以上もヒヤリハット事例があるけど、種類ごとに分けているから自分の現場と似た状況を探しやすそうだね。
まとめ【ハインリッヒの法則】ヒヤリハットが起きた=運よく事故にならなかっただけ!
「ハインリッヒの法則」をご存知ですか?
ハインリッヒの法則とは、「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というものです。
ハインリッヒの法則は労働災害における怪我の程度を分類し、その比率を表しています。
その数字から「1:29:300の法則」と呼ばれることもあります。
つまり、ヒヤリハットが起きたということは、その時は運よく事故にならなかっただけ。
後で同じヒヤリハットが起きたら、その時は重大事故になるかもしれません。
現場で事故が起きたら、本当に最悪です。
- 「事故速報」を発注者に20分以内など、直ちに提出する
- 原因など、安全管理に問題が無かったか、追及される
- ケガ人が出れば、現場で働く人以外に、ケガ人の家族も悲しむことになる
- 事故報告書を作成し、発注者に提出する
- 事故の内容や発生状況の写真や図を作成
- 事故原因と再発防止対策を現場または社内で検討して作成
- 施工計画書から、事故に関係する施工内容を添付
- 事故に関係する業者の契約書、施工体制台帳の写しを添付
- 事故当日の安全巡視日報の写しを添付
- 事故発生日の危険予知(KY)活動日報の写しを添付
- 事故発生日の作業日報の写しを添付
- 事故に関係する作業手順書の写しを添付
- 災害防止協議会の議事録写しを添付
- 安全教育・訓練の実施内容写しを添付
日頃から安全管理を徹底して、現場も書類も不備が無ければ、事故のリスクは少なくできるでしょう。
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